現代損保考

真山 民


       京急踏切事故と損保の「だんまり」


事故現場の踏切。トラックは右上の狭い道路から右折で踏切に入ろうとした。(撮影 B)


 宇沢弘文(「自動車の社会的費用」などの著作で知られる経済学者、1928~2014)の指摘

 日本の都市はもっぱら自動車を中心として改造され、自動車の利用が促進されるようにつくられてきた。「道幅を拡げるために、住宅やその他の施設が撤去され、拡張が不可能な場合には、歩行者の安全を犠牲にするようなかたちで自動車を通行させるように工夫されてきた」(「自動車は都市を破壊する」 『宇沢弘文傑作論文全ファイル』・東洋経済新報社所収)。
 
時速120kmで走る京浜急行の快速特急が13トントラックと衝突し、トラックの運転手が死亡し、電車の乗客35名が負傷した事故は、宇沢弘文の指摘を改めて思い起こさせる。4mの道路、踏切には右折の規制無し
事故を起こしたトラックのドライバーは、第一京浜(国道15号、一国)を右折し京急の仲木戸駅を横断したところで、さらに右折して、事故現場の神奈川新町駅の踏切に通じる線路沿いの道を走った。この道は一国が混んでいる時の抜け道として使われるが道幅が4メートルしかなく、かねてから「小学生も通る道だから危ない」と住民が指摘していた道路である。しかもこの道路にも、踏切にも右折困難や禁止規制はなかった。

 こうした道路に13トン積みのトラックが走り込む。まさに「歩行者の安全を犠牲して自動車を通行させる」日本の交通行政を物語っている。これが第一の指摘。


 
遮断機が上がらない“開かずの踏切”

 京急の線路沿いの道に誤って進入したのではないかと思われるトラック運転手が、最初事故現場の踏切とは反対側に左折しようとしてできず、次に右折し踏切を渡ろうとして立ち往生し事故を招いた。この踏切は上下線計4本の線路を横切るため、国交省作成の「踏切安全通行カルテ」にある「ラッシュ時間帯の1時間のうち40分以上遮断機が上がらない“開かずの踏切”」に指定されていた。ところが、国交省の「改良すべき踏切道の指定」のリストには入っておらず、踏切を管轄する横浜市も「安全対策を進めるべき対象」とはしていなかった。こうした踏切に安全策を取っていなかった国交省と横浜市の怠慢が、この事故の背景にある。これが第二の指摘である(いずれの指摘も「日刊ゲンダイ」9月6日号の「京急衝突事故を招いた“魔の四重禍”を放置した横浜市の大罪」を参照)。


 
踏切が多い日本の都市
 
海外と比較すると、日本の都市部は踏切が多い。フランスのパリは周辺3県を含めて踏切は7カ所しかない。一方東京都は23区だけでパリの90倍の踏切がある(「京急事故 踏切の危険性を探る」日経9月5日)。
踏切の安全対策には費用がかかる。線路と道路を分離する立体交差化には1カ所だけでも億単位の工事費が必要なことから、国交省などは「当面の対策」として、100万円程度で済む自動車道と歩道を見分けるカラー舗装を多くの踏切に採用している。こんな弥縫策が、開かずの踏切などで起こる事故の抜本的解決にならないことは言うまでない。

 

 大企業と行政に申し入れもしない損保

 ところが、損保各社は重要得意先である鉄道各社と自賠責保険の管轄省である国交省を忖度してか、全国に1479カ所もある「緊急に対策の検討が必要な踏切」について「至急抜本的対策を取る」よう申し入れた様子もない。それでいて、今回の京急の事故では多額の保険金の支払いを余儀なくされる。台風や豪雨災害での火災保険の支払いもしかり。そして、損害率が悪化すれば、保険料の値上げという形でつけを消費者に回す。そんな経営を損保経営者は何十年も続けている。