みんなで歌おうよ➅ 「若者との対話」


守屋真実

もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 首相官邸前で日曜祝日と盆暮れを除く毎日、辺野古埋め立てに抗議している沖縄出身の女性たちがいる。記者会館の柵に手作りのバナーやプラカードを張り、歌ったり踊ったりして意思表示している。明るく、屈託なく、それでいて風雨に負けない沖縄人らしい活動スタイルだ。今年の初めに偶然行き会って一緒に歌ったら喜んでくれたので、以来毎週金曜日には私も参加している。

 先週もいつものように歌っていたら、20代後半くらいのサラリーマン風の男性が、「辺野古に反対ということは、危険な普天間を残すということですか」と、少々棘のある口調で話しかけてきた。「もちろん普天間も無くしたい。米軍基地はいらない」と答えると、「じゃあ、中国や北朝鮮と組んで、日本も核武装するのですか」と語気を強めた。彼自身「戦争には反対です」と言いながら、平和を維持するためには大国と組んで武力で威嚇し、敵を抑止するという構図しか考えられないらしい。おそらく今の若者の多くが、それが唯一の方法と思い込まされているのだろう。

 

 話しているうちに彼の知識の少なさが現われてくる。きっとどうやって普天間基地が作られたのかも知らないのだろう。形勢が悪くなると、「僕だったら、おばさん達から先に戦場に送ります」などと突拍子のないことを言い出す。論理ではなく、相手の意表をついて主導権を得ようとするのは、典型的なポピュリストの話法だ。

 

 私たちは、今度戦争が起きたら核兵器や化学兵器が使われ、勝者も敗者もなく人類は滅亡するだろう。敵を抑止するのではなく、そもそも敵を作らない方法を模索すべきだ。将来は、世界中でもっと自然災害が多発するだろうから、助け合わなければ生き延びられないということを主張した。話しているうちに青年の表情が穏やかになっていったと思う。

 私が被爆二世であることを話し、「理想論だと思うかもしれないけど、理想を持たなければ何も変えられないでしょう」と言ったら、まっすぐ私の目を見て、棘のない口調で「ありがとうございました」と頭を下げて去っていった。

 

 彼の思考にどれだけ影響を与えられたかはわからないが、欲求不満の感情論ではなく、お金のためでもなく、理想のために行動しているおばさん達がいることは伝わったと思う。知らんぷりして通り過ぎる大人より、意見が違っても話しかけてくれる若者がいるのはうれしいことだ。安倍政権が露骨な壊憲シフトを示してきた今、私たちはより多くの人と対話しなければならない。

 そんな話をしていたので、この日はあまり歌えなかったのだが、最後に歌った「沖縄今こそ立ち上がろう」は、みんなの声がいつもより力強いように感じられた。